出会いと別れの季節

ゴキブリ 日記
ゴキブリ

 2019年4月9日 火曜日。長い冬が終わって春がきた。まだ春になって一度も外に出ていないので、春になったらしい、というのが正しいかもしれない。陽気で浮かれた人々が桜の下でワイワイしているのが別世界の出来事のように感じる。

 テレビのインタビューを色んな人が受けていた。「家族で花見に来ました」というのは遥か昔を思い出す。「仲間と花見です」というのは、そういえば友達と花見したことあったかなと思う。「僕らは恋人で~す」というのは、自然と指がリモコンの電源ボタンに伸びる。そんなもんだから花見シーズンが終わるまではニュース番組は観ないようにしようと思う。
 また、春といえば、出会いと別れの季節だけど、ニートにとってはそんなことはない。ちょっと室温があがるだけの季節だ。なんか花の匂いがするなと思ったら、トイレットペーパーの香りが手についていただけだったりする。そんな発見もただ寂しいだけだ。

 発見といえば、昨日とうとう出会ってしまった。室温が上がってきたからだろう。黒くてカサカサ動く虫、ゴキブリ。どうせ寒くて出ないだろうと油断していた冬の間に積もりに積もったゴミの山から現れた。しかし、まだ春に慣れていないからか、動きが鈍い。それにまだ米粒ほどの小ささで、右も左も分からない様子だった。
 僕は周りを見回し、そいつを葬るためにティッシュ箱に手を伸ばしたが、箱はたまたま中身を切らしていた。そして小さなゴキブリに目をやる。動く様子はない。ティッシュを補充しに行ってもよかったし、トイレに行ってやたら花の香りがするトイレットペーパーをちぎって来てもよかった。こういう時は大抵、行って帰ってきたらいなくなっていることが多いけど、なんとなくこの小さなゴキブリはずっと待っているような気がした。僕は迷った。

 迷った挙句、見逃してやることにした。それは出会いと別れの季節に感傷的になっていたからではなく、そのゴキブリがまだ小さな命であるからでもなく、単に面倒くさかったからだ。そもそも僕が面倒くさがる人間じゃなかったら、こんなゴミの山積みあがることもなく、ゴキブリも出現しない。
 
 そうやってゴキブリとの出会いと別れを終え、僕は寝たわけだけど、今日になってやっておけばよかったと後悔している。よく言われているのが、「ゴキブリが1匹いたら100匹いると思え」という言葉である。やつがいるということは、すでにこの部屋には100匹の仲間がいるということであり、また、やつが成長すれば、100匹生まれ、またその100匹がそれぞれ100匹生む。とんでもない数になる。それに朝からなんだか胃がムカムカする。「あれ? もしかしてあいつ僕の口から体の中に入ったんじゃ…」今度は「人生に何度か人間は寝ている間にゴキブリを食べる」という言葉を思い出す。僕は花粉症でもないのに涙目になってきた。
 世の中は広い。恋人と花見をする人もいれば、ゴキブリと暮らす人もいる。僕は普段、そうやって華やかな存在と自分を比べることをしないように心がけているけど、今回は思わぬ出会いがあって少し考えてしまった。正直なところ、花見だのバレンタインだのハロウィンだのクリスマスだのは地球の裏側の出来事のように思える。しかし、ゴキブリだって地球の裏側にわんさかいる。いや、ゴキブリ、たいしたもんだ。ゴキブリすごい。

前回の日記  2019年4月1日 「新元号令和を迎えたニート

次回の日記  2019年4月12日 「ゲーム漬けの日々

タイトルとURLをコピーしました